賃貸物件のキャンセル
賃貸物件のキャンセル
賃貸物件の契約のトラブルは、申し込み後の「キャンセル」と退去時の「原状回復」が圧倒的に多いです。
今回は「キャンセル」について、いつまでならキャンセルできるのか、トラブルにならないためにも正しい知識を知っておいてください。
なお、このキャンセルについては、不動産相談コーナーに問い合わせも多く、また、他社様の書かれている回答の中にも誤解を招く表現が多く見られたので、弊社所属の宅建協会大阪に問い合わせの上、弁護士の法律相談にも出向き、確認しました。
賃貸のキャンセルはいつまでならできるのか
そもそも、賃貸のキャンセルはいつまでできるのか
法律では「〇〇までならキャンセルできます」といった条文はありません。
そういった法律があれば、わかりやすくっていいんですが・・・。
ですので、いろんな法律からアプローチして、「キャンセルができる、できない」を考える考える必要があるんですね。
賃貸借契約は「契約」ですので、主に「民法」に契約についての条文が規定されています。
また、不動産の取引ですので、不動産業者を規制している「宅建業法」という法律にも関連した条文が規定されています。
それを少しずつ見ていくことになります。
契約とは
では、契約とはなんなのか、ということですが、例えば、皆さんが日々、お店で買い物をしますが、それも「売買契約」という契約です。
また、今回は家を借りる契約なので、「賃貸借契約」という契約にあたります。
それ以外にも仕事をするときには「雇用契約」など、様々な契約があります。
この「契約」ですが、一旦、契約を結ぶと、法的な拘束力が出てきて、簡単には取り消すことができません。例えば、皆さんが就職して、雇用契約を結んんだあと、雇用者が簡単にその契約を破棄されて、クビにできてしまうと困りますよね。
ここで大事なのは「契約は成立すると法的拘束力が出てくる」ということです。
法的拘束力とは、契約の本旨に従い、双方が契約内容を履行する責任が発生します。
賃貸人は家を貸し、賃借人は家賃を支払わなければなりません。
また、仲介業者が入っているときは仲介手数料の支払いも発生します。
成立後は一方的なキャンセルはできません。(→損害賠償が発生する事由となり得ます)
このように「契約が成立」すると、様々な責任が当事者双方に発生するのです。
・・・ということで、契約はどうすれば成立するか、ということが問題になります。
「契約が成立する」のはいつ?
民法522条に「契約の成立」の条文があります。
★(改正)民法522条
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。」(民法522条1項)
「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。」(民法522条2項)
見てわかる通り、「申込」と「承諾」という双方の「意思表示」があれば、契約は成立します。また、契約書などの書面で交わす必要はありません。
例えば、日々、お店で買い物をするのも「売買契約」です。買い物でわざわざ書面にしたりはしないですよね。法律的には「双方の合意」があれば、契約は成立します。(諾成契約)
勘違いが多いのは「契約書に記名捺印をすることが契約」だと思い込んでいる人が多いのですが実は法律的にはそうではありません。
一般的に賃貸借契約は「契約書」を作成しますが、それは仲介をしている宅建業者は契約の成立後、すみやかに書面を交付しなければならない(宅建業法)と決められているので、契約書を作成しているだけです。
例えば、大家さんと知り合いで、家を直接借りる約束をした場合、契約書がなくても法律的には問題がありません。「契約=契約書に署名捺印」と勘違いしている人が多いだけですが、口頭でも双方が合意していれば、その合意は有効、つまりは契約として成立しうるのです。
この民法522条を文字通り読めば、申し込みをして、賃貸人(大家さん)が承諾をしてくれた段階で、「契約が成立」している可能性があります。
可能性がある、という表記したのは、実際にキャンセルが問題になり、契約が成立しているか(キャンセルできるのか)といった双方の主張が異なり、トラブルになったときは、契約が成立しているかどうかは裁判で決める(=司法判断)になるからです。
実際にどの段階で契約が成立しているか、つまりは「契約当事者が契約内容についてどの段階で双方の合意があったか」ということの判断は、事案1つ1つで異なるため、「契約書に記名捺印」といった形式的な判断基準はありません。
ですので、申し込み後、大家さんから「承諾」の連絡が来た段階で、「契約が成立」となり、その後、キャンセルしても認められず、費用を請求される「可能性」があります。
不動産相談でもキャンセルについての質問は多いので、確認のため、今年の8月に弊社所属の宅建協会大阪本部に問い合わせを入れたい上、弁護士相談に確認に行きました。
その時の当番弁護士の話では「初期費用を支払った時点で合意があった(=契約が成立)と考えられる可能性が高いのではないか」ということでした。(もちろん、契約の成立についての明確な線引きがあるわけではなく、事例により、司法判断も異なると思われます。)
つまり・・・キャンセルができるのは、賃貸人と賃借人の双方が合意し、賃貸借契約が成立する前まで
「申し込みをし、承諾があり、双方の合意があったと判断される時まで」
ということになります。
※大阪府によると契約に関しては「一般的には家主が仲介(媒介)業者に承諾の意思表示をした時点で契約は成立すると考えられます。」とのことです。
https://www.pref.osaka.lg.jp/kenshin/chotto_chintai/chui.html#48
一般的な賃貸借契約の場合、申し込み後、審査があり、概ね3~5日程度で承諾が出ます。
承諾後は「契約が成立しているからキャンセルはできません」となる可能性は民法だけですと、十分にあります。
ただ、賃貸借契約は仲介業者が間に入っている場合がほとんどです。
「宅建業法」という法律はこの仲介業者に様々な責任や義務を課し、消費者を保護しています。
それ故、宅建業法の観点から、契約がキャンセルできないか・・・ということになります。
宅建業法35条重要事項説明と契約の成立について
宅建業法というのは不動産取引のプロである不動産業者を規制し、一般的に弱者である消費者を保護する法律です。
この宅建業法35条に「重要事項説明」の義務が仲介業者には課せられていて、必ず「契約の成立の前」に行わなければならないことになっています。
このことにより、消費者は物件についての説明を受け、契約の判断をすることができます。
先述の通り、宅建業法35には「契約が成立するまでの間」に重要事項説明をしなければならないことが定められています。それ故、「重要事項説明」が行われていないことを理由に、「契約が成立前である」と主張できるか(=契約をキャンセルできるか)、という問題が考えられます。
この宅建業法が規制する対象は宅建免許を持つ、宅建業者であり、売買の場合は「仲介業者」はもちろんのこと、「売主」が宅建業者であれば、売主も規制の対象となるのですが、賃貸の場合、「仲介業者」は規制の対象ですが、「賃貸人」は宅建業者であっても規制の対象からわざわざ外されています。
このことから、重要事項説明の前であれば、少なくとも仲介業者に対して「契約の成立」の前、であると主張し、仲介手数料の支払いを拒絶することは、この宅建業法35条を根拠に主張できると思われます。
問題は賃貸人に対してできるか否か、ということなのですが、先述の通り、賃貸人は業法の規制対象となっていません。それ故、宅建業法35条を理由に「契約の成立前であること」を賃貸人に対して主張できるかどうかは不明です。(争いとなれば司法判断になるかと思われます。)
それ故、重要事項説明前であっても「契約の成立」を主張する賃貸人から代金の請求をされてしまう可能性は否定できません。
ただし、実際に主張されたとしても、支払いを拒否すれば、賃貸人がそれ以上・・・つまりは訴訟など法的な措置に出るかと言えば、コスト倒れになるので、実質的には賃貸人の泣き寝入りになることが多いかもしれません。
しかしながら、何らかの事情ですでに代金を支払ってしまっているのであれば、契約の成立を理由に返金の請求を拒否される可能性は十分にあります。そうなると今度は代金の返金請求側がコストをかけて請求することになります。
実際の実務の現場では、初期費用は多くの場合、仲介業者を通して賃貸人に支払います。
それ故、重要事項説明前であれば、仲介業者にキャンセルを伝えた場合、この宅建業法を根拠に返金請求をすることができます。
ただし、何らかの事情で、費用を賃貸人に振り込んでしまっている場合は、前述のとおり、「契約が成立している」と主張され、返金されない可能性もでてくるのではないかと思います。
契約の成立について争いになった場合、(返金)請求をする側が法的措置等をしないといけなくなる可能性があります。十分にその辺りは注意してください。